続発する仮想通貨不正流出事件の裏側、取引所のセキュリティ担当が本音を語る

ビットバンクのセキュリティ責任者が見る取引所セキュリティの現状
国内取引所で発生した30億円相当の不正流出事件について、bitbankセキュリティ責任者が有識者の東氏と配信で対談。「安定度が高いのはビットコイン、面白い仕組みはリップル」などと言及した。

セキュリティの専門家が語る「取引所セキュリティ」の裏話

「仮想通貨」というワードを聞くと次に「セキュリティ」のことが頭をよぎるのは、先週ビットポイントの不正流出事件が発生したからだけではないだろう。過去、マウントゴックス事件を皮切りに、今回の事件を含め直近2年間では大きなハッキング事件が国内で発生している。

しかしながら、仮想通貨の理解にはその技術的理解を含むがゆえに、不正流出事件の発生要因や再発防止に関して、たとえ普段から仮想通貨に慣れ親しんでいる人であっても正しく理解している人は少ない。

今回事件を受けて、bitbankのCBO兼FLOC/ブロックチェーン大学校の校長を務める、ジョナサン・アンダーウッド氏と東氏(@Coin_and_Peace)の対談動画が、仮想通貨系の人気YouTubeチャンネル「ビットコイン反省会」で公開された。アンダーウッド氏は同取引所でセキュリティに関する責任者を務めている仮想通貨(取引所)セキュリティの専門家だ。

今回の事件は、ビットポイントが保有するホットウォレットから計30億円相当の複数種類の仮想通貨が不正流出した。具体的な攻撃手法は公開されていないが、被害額を全額補償する旨の発表を行っている。

実は正しく理解されていないホット/コールドウォレット

一般的にホットウォレットコールドウォレットは正しく理解されていないことが多い。取引所側もコールドウォレットに顧客資産を保管しているという記述をしていても具体的にどのように保管しているのかはブラックボックスだ。

これに対してアンダーウッド氏は、ホットウォレットを「インターネットに常時接続されている場所に秘密鍵が保管されているウォレット」と定義する。通常秘密鍵を知っていれば、そのウォレットにアクセス可能であるが、その鍵(実際には文字列)がインターネットに常時接続された環境下で保管されているということを意味する。

反対にコールドウォレットは、「一度もインターネットに接続されたことのない場所に秘密鍵が保管されているウォレット」だ。同氏曰く、「一度も」という点が重要で、インターネットに接続されていないデスクトップ上であっても、過去に1回でも接続したことがあればそれはコールドウォレットとは呼ばない。

「コールドウォレットだから安全」というわけではない

では、コールドウォレットは絶対安全なのだろうか。同氏は100%安全ではないと指摘する。

そして、「デジタルセキュリティ」と「物理セキュリティ」の2つのセキュリティを考える必要性に言及する。「物理セキュリティ」とはウォレット自体やその秘密鍵を物理的に紛失するリスクや管理者が死亡したり会社がテロリストに狙われるリスクに関するものだ。

今年初めにカナダの取引所でCEOの死亡(諸説あるが)によって取引所ウォレットにアクセスができなくなったケースが報告されている。犯罪で狙われるリスクは特に取引所関係者であれば高いのは想像に難くない。実際に同氏の所属するBitbankでは秘密鍵を所持する人物同士は飛行機を別々に乗るなどといったリスクヘッジを行なっている。

ハッキング事件はゼロにはならない。一方で

様々なリスクがある中で、各社が対策に取り組んでいくわけだが、今後もこのようなハッキング事件はゼロにはならないと同氏は語る。

対談内ではハッキングが起こるメカニズムとして、ソーシャルハッキングの例を挙げている。これはミートアップなどのイベントで親しくなった内部の人間へのウイルスファイルの送信やフィッシングメールを使った成りすましによるウイルスファイルの送信によって秘密鍵が盗み出されるという事例だ。

このようなハッキングは常に新しい手口が現れてくるのが一般的で、今後も新しい手口が現れてくる可能性は十分に考えられる。さらにハッカー達は新しい手口で複数の取引所に対して攻撃を行うことが多く、今回の事件はたまたまビットポイントが標的になった可能性が高いと指摘する。

そのようなハッキング事件の新規性、拡大可能性を鑑みると、事件後に取引所同士が即座に情報共有することが必要だと語る。現在はそのようなことが行われていないため、別の取引所が同じ手口で狙われるリスクや、独自に情報収集を行わなければいけないコストも発生する。そのような施策は被害を最小限に抑えるという観点で非常に重要だ。

取引所が取り組むべき3つの重要事項

では各取引所レベルではどのようなことに取り組めばいいのだろうか。アンダーウッド氏は「取引所が最低限取り組むべき3つの対策」を挙げている。

  1. 入金アドレスはコールドウォレットのアドレスを利用する
  2. ホットウォレットの資産は自己資金で対応できる額に留める
  3. 顧客からの出金要請額とブロックチェーンに記載されている額が一致していることを毎回確認する

この上で、「自分がハッカーだったらどういう手口を思いつくか」という観点を持つことが重要だと語る。

さらに同氏は仮想通貨取引所のセキュリティを扱う専門家の観点から、仮想通貨の種類によってセキュリティの観点で特徴があると話す。

セキュリティ上、一番扱いやすいコインは?

セキュリティ面で、管理がラクなのはビットコイン(BTC)だ。

ビットコインとその派生のBCHやモナコインの場合、問題発生時でも基本的にエンジニアが慌てることがない。

例えば、運用するノードが不安定で応答していない時に、ただのクラッシュしただけなのか外部からの攻撃なのかという状況があった場合、ビットコイン(BTC)はほぼゼロだ。他の通貨ではわからない時がある。

例えばイーサリアム(ETH)は、秘密鍵は大丈夫だとしてもdAppsゲームなどを運用する上で必要なインフラ面(パーツ)で不安な面があった。イーサリアム(ETH)はプロトコルレイヤーのマルチシグは存在せず、スマートコントラクトレベルでマルチシグ実装はできる。オープンソース、クローズドソースだから安全ということはない。

スマートコントラクトレイヤーでコールドウォレット制御は止めておこうという判断になった。

意図的に通常マルチシグは使用せず、他の対策を施している。

セキュリティ的に面白いのはXRP

マルチシグは、同じアドレスのまま、裏で同じマルチシグの権限を持っている鍵を入れ替えることができる。新しい鍵に入れ替えないといけない場合に、アドレスを制御するために必要なマルチシグA,B,C,Dの鍵からE,F,G,Hに入れ替える。マルチシグで署名すればアドレスは替わらない。「裏の鍵を自由に入れ替えることが出来る」という機能は、他の通貨でも実装できたら嬉しい点だ。

例えばビットコイン(BTC)では、公開鍵のマルチシグスクリプトをハッシュ化してそれがアドレスになる。安全性はあるが利便性にかける部分がある。

新技術「マスト」などで緩和できる可能性がある。

ハッキング事件が起こりやすい日本特有の状況

冒頭でも述べたが、過去2年で3回ものハッキング事件が日本国内で発生している。そのような状況に対しては、日本人が日本語で情報収集を行う傾向にあるので目立つだけであるというバイアスがあるものの、日本特有の注意すべき点があると述べる。

日本は事業者として運営のライセンス取得が難しいのは事実だ。しかし一方でこれは、ライセンスの要項を満たすことが目的化したり、一度要項を満たした後はそのレベルを維持するという観点が欠落するケースが多いと話す。個人情報保護法のPマークを取得した企業がそれ自体が目的化し、その後個人情報の流出被害に遭うという例をあげる。

今後、取引所側、ユーザ側双方がセキュリティに対して正しい理解を行い、常に更新される情報を正確に追求していくことが重要だ。

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